2020年は、世界中で新型コロナ感染症(COVID-19)が蔓延しましたが、年末からは各地で変異ウイルスによる感染も確認され、2021年も予断を許さない状況です。病床不足や医療従事者の疲弊など、医療の逼迫も世界中から報告されています。無症状の感染者がいる一方、重篤化し命を落とす感染者数も増加の一途です。限られた医療資源の中で、効率よく治療するためにも、患者の振り分けが大切になってきます。
すなわち新型コロナウイルス感染症の重症度の信頼性の高い予測は、臨床上不可欠であり、患者の転帰を改善するためにも早期に予測、対応する必要があります。実際どのような感染者が重症化し、人工呼吸器やICUでの治療を必要とするか予測するAIが様々な形で発表されています。つい先日(2020年12月)、米カリフォルニア大学アーバイン医療センタ-の研究者らが開発した、オンラインで無償利用できる「新型コロナ感染者における72時間以内の重症化予測AIツール」が公開されました。臨床医が患者データを入力すると、重症化予測が出力されるWebベースの有用なツールです。
日本でも、従来から新型コロナ感染の重症化リスク因子として、高齢者、喫煙男性、肥満、基礎疾患(心臓、肺、腎臓、高血圧)、糖尿病、がん患者などがいわれてきましたが、今回のAI予測(精度95%)と同じでしょうか、考えてみたいと思います。今回の重症化AI予測に用いられているのは、最終的に次の13項目です。年齢、性別、呼吸数、肥満度(BMI)、基礎疾患(糖尿病、心血管病、高血圧、慢性腎臓病、肺疾患)の数、白血球数、リンパ球率(%)、血中クレアチニン、血清乳酸脱水素酵素(LDH)、トロポニンI、フェリチン、プロカルシトニン、CRPです。
では重症化した人としなかった人の状態を比べてみましょう。
1)年齢(高齢者が重症化しやすいわけではない) 55歳(重症化)対 46.5歳(非重症化)
2)男性比(やや男性が不利) 71.4%(重症化)対 62.1%歳(非重症化)
3)呼吸数(息苦しいのは危険) 22回(重症化)対 18回(非重症化)
4)BMI肥満度(やはり肥満は不利) 33.2(重症化)対 27.5(非重症化)
5)基礎疾患の数(心血管病、肺疾患、腎臓疾患、糖尿病、高血圧)
2.2個(重症化)対 1.0個(非重症化)
6)総白血球数(炎症で増加) 8800(重症化)対 6100(非重症化)
7)リンパ球率(免疫抑制で低下) 15.0%(重症化)対 22.2%(非重症化)
8)血中クレアチニンmg/dL(腎機能低下で上昇) 1.6(重症化)対 0.9(非重症化)
9)乳酸脱水素酵素(LDH)U/L(心筋障害などで上昇) 514(重症化)対 248(非重症化)
10)トロポニンI ng/L(心筋障害などで上昇) 43.7(重症化)対 8.7(非重症化)
11)フェリチンng/mL(肝障害や炎症性疾患などで高値) 1067(重症化)対 373(非重症化)
12)プロカルシトニンng/mL(感染や敗血症で高値) 1.2(重症化)対 0.2(非重症化)
13)CRP mg/d L(炎症で高値) 13.1(重症化)対 8.1(非重症化)
日本で言われているような、「がん患者」というリスク因子は入っていません。個別の臓器や免疫機能に問題がなければ、「がん患者」というのはリスク因子ではなさそうです。また、最近日本でも言われるようになってきましたが、「高齢者」(65歳以上)より「高年者」(55歳前後)の方がむしろリスク因子のようです。年齢より「基礎疾患の数」の方がウエイトがあるようです。また「喫煙」自体もリスク因子ではなく、肺に異常がある時にリスク因子になるようです。(by Mashi)
参考文献:Daniel S. Chow et al., Development and external validation of a prognostic tool for COVID-19 critical disease. PLoS ONE 15(12): e0242953.( December 9, 2020) https://doi.org/10.1371
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