花の癒し効果は本当だった

  綠あふれる木々囲まれた森林などの自然環境では、気分が爽快となり、ストレスも緩和されることがよく知られています。では、自然環境の重要な要素の1つである花は、どのような影響をもたらしているのでしょうか。いうまでもなく、花は様々な儀式、個人的なプレゼントやお見舞いなどに広く用いられ、ヒトの心理に影響を与えていると予想されますが、花の観賞によってストレス軽減効果が得られるのか十分な検証は従来行われてきませんでした。

  最近、農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)と筑波大学等の研究者は、花の観賞による癒し効果を心理的、生理的、脳科学的データによって明らかにしました。ストレスを与えた実験参加者に、花の画像を見せると、ネガティブな情動が減少し、ストレスにより上昇した血圧やストレスホルモンの値が低下したという結果です。

  ストレスを感じると、誰もが恐怖や怒り、嫌悪などのネガティブな情動が生じます。生理的には血圧が上昇し、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールが上昇します。研究では、実験的にストレスを与えられた参加者に対し、花の画像と花以外の画像を見せ、情動、血圧、コルチゾールへの影響を検討しました。さらに、花によるストレス軽減効果をもたらす脳内メカニズムを明らかにするため、花を見た時に生じる特異的な脳活動をfMRI(磁気共鳴機能画像法: MRI装置を用いて、脳内の血流量の変化を可視化する方法)で調べました。

  実験は35名(平均年齢24.4歳)を対象に、不快画像(たとえば事故場面やヘビ、虫など)を6秒間提示しストレスを負荷した後、花や青空、椅子などの画像を6秒間提示し、さらに26秒間安静にする(回復期)試験を繰り返し行いました。実験参加者は、ストレス期にネガティブな情動が起きましたが、回復期において、椅子の画像に比べ、花および青空の画像で有意に改善することが分かりました。また血圧がより低下したのは花の画像で、回復期に最大で3.4%血圧が低下しました。青空の画像によっても心理的な改善効果は認められましたが、血圧上昇などの生理的ストレス反応をより効率的に低減させるのは花であることが示されました。

  ストレスホルモン(コルチゾール)に関する実験では、32名(平均年齢21.6歳)に対して、不快画像を4分間提示した後、花の画像もしくは花のモザイク画像を8分間提示し(回復期)、唾液中のコルチゾール値を調べました。その結果、花の画像ではコルチゾールの値が約21%減少しましたが、モザイク画像では減少しませんでした。

  脳活動(fMRI1)を調べた実験では、花画像では花以外の画像に比べて、右半球の扁桃体から海馬に至る領域で活動の低下を認めました。海馬は記憶の想起、扁桃体は情動の惹起にそれぞれ重要な役割を果たす脳領域です。この2つの領域の活動低下は、花の画像によって不快画像の惹起、記憶が抑制され、ネガティブな情動も減少したことを反映していると思われます。

  今回は花の画像での研究でしたが、実際の生け花による効果、さらには花の香りも加わった状態などの研究にも期待したいものです。各地のガ-デンや野山で花を見るのが好きなM君の写真を蛇足で。(by Mashi)

・見限りし故郷の桜咲きにけり(小林一茶)

故郷では不運でストレスの多かった一茶も、桜の花に癒しをもらったのでしょうか?

参考文献:Mochizuki-Kawai H et al., Viewing a flower image provides automatic recovery effects after psychological stress. Journal of Environmental Psychology (2020) https://doi.org/10.1016/j.jenvp.2020.101445

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