メタボ健診は行う意味がない!?

  少々小太りなM君は、健康診断のたびに腹囲85cm以上を指摘され、メタボだと言われ続けてきました。お腹を少しへこませて臨んでも、看護師さんの「ハイ深呼吸してリラックス」にいつも撃沈。しかし、身長や体格を考慮しないで一律腹囲85cmはおかしい、女性が90cmというのもおかしいし世界のすう勢に反している、疫学調査では小太りが一番長生きだ、メタボ健診は健康増進や生活習慣病の予防に本当に効果があるのか? などとうそぶいていました。そんなM君に今回は朗報?の論文です。

  特定健診(メタボ健診)は、内臓肥満に関連する生活習慣病の予防につなげることを目的として、2008年4月より始まった、40歳〜74歳までの公的医療保険(国民健康保険等)加入者全員を対象とした保健制度です。腹囲の測定及びBMIの算出を行い、基準値(腹囲:男性85cm、女性90cm 、 BMI:25)以上の人は、さらに血糖、脂質(中性脂肪及びHDLコレステロール)、血圧、喫煙習慣の有無から危険度によりクラス分され、クラスに合った保健指導を受けることになっています。今回は、大規模な健診データを活用し、メタボ健診における保健指導制度の効果を検討した最近の論文をご紹介します。

  京都大学医学研究科、カリフォルニア大学、東京大学経済学研究科の共同研究グループは、就労世代男性 7.5 万人の大規模な健診データを用いてメタボ健診の効果を検証しました。その結果、メタボと判断され保健指導の対象になった人は、対象にならなかった人と比較して、翌年の体重は 0.3 kg 減少(たった300gです! )、BMI はわずかに 0.1 減少、腹囲は 0.3 ㎝減少(たった3mmです! )と改善 !? されました。しかし、どうみても効果が出たという有意な差ではありません。保健指導の対象になった人の中で、実際に保健指導を受けた人の割合は 16%でしたが、保健指導を受けた人には2%の肥満改善(でも2%ですから60kgの人で1.2kgです)がみられました。

  一方、血圧、血糖、脂質については、保健指導の対象となったメタボ体質の人とさらに実際に保健指導を受けた人の両者において、改善を認めませんでした(図参照)。残念ながら生活習慣病の予防効果にはなっていないようです。結局今回の研究結果では、メタボ健診を受けメタボを指摘されただけでは全く効果がなく、保健指導を受けた場合にのみ肥満の軽度改善(2%)が認められたということになります。残念ながら、生活習慣病の予防、改善につながる血圧 ・血糖 ・脂質の改善は認められず、メタボ健診のあり方、保健指導の介入方法を見直す必要があることが強く示唆されます。

  漫然と続いているメタボ健診ですが、健康状態を改善させるためには、科学的な根拠(エビデンス)に基づき制度を見直し、必要に応じて改善し、より効果的なものにする必要があると思われます。個人的にも無理にお腹をへこませる事態は避けたいので。 (by Mashi)

・痩せ蛍ふはりふはりとながらふも(小林一茶)

やせた蛍がふわりふわりと風に流されている。自分のこの世の姿と重ね合わせた句。当時は痩せた人が多く、メタボの人はほとんどいなかったでしょう。

参考文献:Shingo Fukuma et al., Association of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks With Health Outcomes Among Japanese Men. JAMA Internal Medicine (2020) https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.4334

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