野菜や花の種を買うと、沢山入っていて1回ではとても使い切れない、という経験をしたことがある方もいると思います。翌年蒔いたり、取って置いた種が数年後偶然見つかって蒔いたりしても芽が出ないことがままあります。種(種子)は、水分や温度、光など、発芽に必要な環境が整うと発芽しますが、発芽環境が整わない間は、発芽に備えて養分を最小限に消費しながら生き続けます。しかし、その養分を使い切ってしまえば、発芽力を失い死んでしまいもう芽が出ません。
実は種子にも寿命があり、通常1~2年のものが多いのですが、長命(3~4年)な種子もあります。種の寿命を左右する環境要因として温度と湿度があり、温度、湿度とも低い条件で寿命は長くなります。種まきで残った花や野菜の種は、冷蔵庫や風通しの良い冷暗所で貯蔵、保管するのがベストです。種子や実には、生命のもとになる遺伝情報や発芽を支えるエネルギ-源(脂質やデンプン)などが豊富に含まれています。そのため食用油(大豆、ゴマ、オリ-ブ、シソほか)がとれたり、アロマセラピ-の精油(ジュニパ-、サイプレス、ブラックペッパ-、カルダモン、アンジェリカほか)がとれたりします。香料も色々な種子(クミン、ディル、ナツメグほか)からとれます。
ところで、大賀ハスと呼ばれるハスをご存知でしょうか。今から2000年以上前の古代のハスの実(種)から発芽、開花したハス(古代ハス)です。1951年に、千葉県千葉市の縄文時代の落合遺跡(現東京大学検見川総合運動場内)で、地下約6mの泥炭層からハスの種が発掘され、ハスの専門家の大賀一郎氏により無事育てられ、ピンク色の大輪の花を咲かせました。今では、この大賀ハスは全国に広がり、2000年以上前の縄文時代の花を再現してくれています。ではなぜこのハスの種子は2000年も眠っていることができたのでしょうか? おそらく、低温の乾燥状態、さらに地中深いため酸素濃度も低かった(栄養成分が酸化されにくい)ためと思われます。
大賀ハスは例外的な保存状態ですが、人為的な低温、乾燥状態では、種子の寿命はどのくらいなのでしょうか?農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)は、−1°C、湿度30%という保存に適した環境条件で保存していた種子について、30年間にわたり5年おきに発芽率を直接調べ、その結果から主要な50種8万点の種子寿命を推定し、最近論文を発表しました。
その結果、ダイズは15年、イネは17年、コムギは20年、トウモロコシは21年であり、種子寿命が長いものとしては、トマト31年、ナス36年、メロン59年、ソバ68年、そして最も長命だったのはキュウリで127年でした(図参照)。このように30年にわたる実際の種子保存で、得られた50種8万点の、のべ40万件にのぼる発芽率データの研究は世界で初めてです。
植物の種子の発芽能力は、作物の栽培において非常に重要な特性です。種子の寿命に合わせて、より効率的で高品質な種子の採取や保存、また種子の保存、維持を行う自治体や農協、企業などが、長期的な採種計画をたてるのにも役立つと思われます。(byMashi)
・芽出しから人さす草はなかりけり(小林一茶)
(種から芽を出した柔らかい若葉は、人をさすことはない。世俗で苦労した人の言葉であろう。)
参考文献:Yamasaki, F. et al., Thirty-year monitoring and statistical analysis of 50 species’ germinability in genebank medium-term storage suggest specific characteristics in seed longevity. Seed Science and Technology (2020), 48(2): 269-287. DOI: https://doi.org/10.15258/sst.2020.48.2.14
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