新型コロナに存在する通常コロナとの共通抗原

 新型コロナウイルス感染症(疾患名COVID-19、ウイルス名SARS-CoV-2)による日本の死者数は、欧米と比べて低く抑えられており、社会的要因(医療体制、BCG接種、清潔志向、日本語の特性)や生物学的要因(体質、免疫状態)が想定されています。今回は、さらに過去の風邪引き(通常コロナなどによる感染)が新型コロナの感染を防御している可能性についてご紹介致します。

 病原性の強いコロナウイルス(MERS-CoV、SARS-CoV、SARS-CoV-2)以外に、4種類のコロナウイルスが知られていますが、それらはいずれも軽い呼吸器症状(いわゆる風邪)を引き起こす程度です。また、従来のコロナウイルスのいずれかに感染すると、交差反応性を示す抗体が誘導されて、別のコロナウイルスに感染しにくくなることが知られています。このような通常コロナに対する抗体が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にも交差反応を示すのか英国の研究者達が調べました。

 研究者達は、COVID-19確定例170名の血清と、新型コロナウイルス非感染者(成人計262名と小児と思春期の48名)の血清を用いて、高感度フローサイトメトリーを利用した抗体検査を行いました。その結果、非感染者の一部が、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質(他のコロナとの共通抗原)に反応する抗体を持ち、それらは新型コロナウイルスに対する中和活性も有することが分かりました。

 ほとんどの成人が小児期に通常コロナの感染歴を持つと考えられるため、ほぼ全ての成人に共通抗原を認識する抗体が存在していてもおかしくありませんが、何故か成人の一部、調べた非感染者262人中15人(5.72%)にしか認められませんでした。一方、1歳から16歳までの健康な非感染者の血清を調べたところ、48人中21人から新型コロナ反応性の抗体が見つかり、特に抗体の保有率は6~16歳では62%に達したそうです。子供は新型コロナウイルスに感染しにくい、感染しても軽いと言われていることと一致するデ-タです。(図参照)

 一方、米国の研究者達は、新型コロナウイルスのエピトープ(抗原決定基)を142種類同定し、これらの一部は、軽い感冒を起こす既知のコロナウイルスに感染した際に生じたメモリーT細胞とも交差反応を起こすことを報告しています。T細胞を刺激するエピトープ142種類のうち、54%はウイルス外殻のスパイク蛋白質上にあり、11%はスパイク蛋白質中の受容体結合ドメインに存在していることも分かりました。非感染者に存在する新型コロナと交差反応するT細胞は、共通抗原を認識するメモリーT細胞であると思われます。

 実際、米国、オランダ、ドイツ、シンガポール、英国の5カ国で行われた、新型コロナウイルスに感染歴のない人を対象にしたコホート研究では、新型コロナのゲノムシーケンスに相当するペプチドに反応するT細胞が、20~50%の人に存在すると報告されています。このように、通常のコロナに感染し、きちんと免疫能が持続されていれば、新型コロナに感染しにくいのかも知れません。(by Mashi)

参考文献:1) Jose Mateus, et al., Selective and cross-reactive SARS-CoV-2 T cell epitopes in unexposed humans. Science ( 2020) DOI: 10.1126/science.abd3871 2) Kevin W. Ng, et al., Pre-existing and de novo humoral immunity to SARS-CoV-2 in humans. bioRxiv (2020) doi: https://doi.org/10.1101/2020.05.14.095414

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