地下水の年齢:富士山の湧水の歳は?

  地下水は直接見えませんが、川の流れと同じように重力により高いところから低い所に向かって流れています。この地下水脈は、河川の水より少ないのでしょうか、それとも多いのでしょうか?実は地球上の淡水の中で、河川・湖沼の水量が占める割合は、たったの0.4%で、地下水が30%、氷河が70%の割合だそうです。つまり地下水量は、河川・湖沼の総量の75倍もあります。陸地の下では、知られている地上の河川の75倍もの数の川が流れているというイメ-ジでしょうか。

  目に見えない地下水の年代(滞留時間)を知ることは、地下水の適切な管理に大きな役割を果たします。地域の地下水資源の存在量や、地下水流動システムの解明(たとえば地滑りの予測)、汚染の将来予測など、様々な応用が可能となります。では、地下水の年齢はどうやって推定するのでしょうか?

  地下水の年齢を推定する代表的な方法としては、トレーサーを利用する方法が挙げられます。トレーサーとは、水中に溶存し、水とともに挙動するような物質です。具体的には、安定同位体、放射性同位体、溶存ガス等があります。放射性同位体を用いる際のトレーサー物質としては、トリチウム(3H)、炭素14(14C)、塩素36(36Cl)などがあります。最近では、地下水中の溶存ガスである六フッ化硫黄の濃度を指標とする年代測定法が行われ、従来法より簡便かつ短時間で測定が可能です。

  世界の地下水の平均年齢は600歳と考えられているそうです。世界には高年齢の地下水も多く存在し、オーストラリアの地下水には、なんと110万年以上と推定される古いものもあるそうです。日本は降水量が多く、地形が急勾配であるため、相対的に若い年齢の水が多いといえます。東京湾岸の深層地下水の年齢は2840年~36750年とかなり古いことが報告されていますが、会津盆地では13年、那須岳周辺(安部先生が山椒の栽培をしている場所)では2~3年、黒部川扇状地では0.14年と報告されています。

  富士山を源とする湧水は有名ですが、どのくらいの年齢なのでしょうか?富士山に降った雨や雪解け水は、粗い粒子の火山礫などの層を通り抜け外部に湧出していますが、地質の複雑さからか、場所によってまちまちであり、地下水は数年から100年以上もかかって麓に湧出していると考えられています。

  忍野八海は山梨県忍野村にある、富士山の伏流水を水源とする湧水池であり、国の天然記念物、富士山世界文化遺産構成資産、さらに水質も良いことから、全国名水百選にも選出されています(写真はふじやまNAVIより)。この忍野八海の湧水年齢は20年~数十年だそうです。白糸の滝は15年前後、三島湧泉水は数十年から100年だそうです。湧き水に地下水脈の歴史ありですね。(by Mashi)

・姨捨(おばすて)のくらき中より清水かな(小林一茶)

(信州の姨捨山の暗い森から湧き出る清水。自らの暗い人生と救いの希望の比喩か?)

参考文献:土原健雄、吉本周平、白旗克志、石田聡、中里裕臣 省力的な採水法による六フッ化硫黄を指標とした地下水の年代測定 (2019) http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/131331.html

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