入れ歯の洗浄は肺炎リスクを低下させる

  以前にもご紹介しましたが、中高年の健康に関する後悔で最も多いのは、「若い頃から歯や口腔衛生に気を配るべきだった」という後悔だそうです。先日のコラム(2020年9月)でも虫歯菌や歯周病菌は、脳卒中の新たなリスク因子であるという研究をご紹介しました。すなわち脳血管障害の予防には、高血圧、高脂血症、糖尿病、不整脈、喫煙などの従来から知られている危険因子に対策を立てつつ、口腔ケアも重要だと思われます。帝京大学医真菌研究センタ-でも、安部茂先生を中心に、口腔ケア向上を目指したアロマキャンデ-やタブレット、ジェルなどを開発してきました。

  さて突然ですが、あなたは入れ歯をしたまま寝ますか?アッ失礼しました。入れ歯とは無縁でしたね。でも、厚生労働省が行なった「平成28年歯科疾患実態調査」の結果では、60代前半の国民のおよそ5人に1人が入れ歯を使用しており、当然ですが年齢が上がるとともに使用率は上がるそうです。残念ながら、入れ歯をしたまま寝る人の割合は不明ですが、歯科医によっても入れたまま派、外す派に分かれ、それぞれメリット、デメリットがあるようです。入れ歯を装着したままで、1年中ほとんど外さない、洗わないという強者もいるとか。

  高齢者に多い誤嚥(ごえん)性肺炎の予防には、口腔ケアが重要であることは、入院患者や介護施設入所者を対象に多くの研究で明らかにされています。しかし、要介護状態でない元気な地域在住の高齢者の誤嚥性肺炎予防や、さらに入れ歯と関連した口腔衛生状態との関係は明らかにされていませんでした。

  最近、東北大学大学院歯学研究科の研究グル-プから、入れ歯の手入れを毎日はしない人は、毎日手入れをする人に比べて、過去1年間に肺炎を発症した人が1.30倍多いことが明らかにされました。たった1.3倍かと思われるかもしれませんが、たとえば発症が100人対130人ということであり、高齢者の大きな死亡原因である誤嚥性肺炎発症が、毎日の入れ歯洗浄で30人も減らせる可能性はすごいことです。

  研究では、要介護状態にない地域在住の65歳以上の高齢者約7万人を対象に、入れ歯の清掃頻度が少ないことが、過去1年間の肺炎の発症と関連するのか調べました。その結果、入れ歯を毎日洗浄する人に対して、毎日はしない人では過去1年間の肺炎発症のリスクが1.30倍、75歳以上の人に限ると1.58倍も高いことが明らかになりました。入れ歯の清掃を毎日行うことによって、地域在住の高齢者においても肺炎の発症を予防できる可能性が示唆されたことになります。

  要介護状態の人はもちろん、要介護状態にない元気な人でも、入れ歯を使っている人は、洗浄、手入れを毎日行うことが肺炎の予防につながる可能性があるといえます。入れ歯の洗浄、殺菌は口腔衛生を保つ観点から重要ですね。入れ歯を入れたまま寝たい人も、就寝前に洗浄剤などで除菌、洗浄をしてから入れ歯を装着するのがお勧めのようです。(by Mashi)

・かくれ家や歯のない口で福は内(小林一茶)

(48歳で全ての歯を失った一茶が、入れ歯をしていたか否かは不明です)

参考文献:Kusama T, et al., Infrequent Denture Cleaning Increased the Risk of Pneumonia among Community-dwelling Older Adults: A Population-based Cross-sectional Study. Sci Rep 2019; 9: 13734. DOI: 10.1038/s41598-019-50129-9

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