昨今の小学校では見られないかも知れませんが、現在の高齢者、すなわち戦後に学童期を過ごした男子には、相撲は日常の風景であり、小学校では人気のある遊びでした。栃若時代、柏鵬(はくほう)時代です。でも強靱な体を持った関取が、短命であることは当時全く知りませんでした。最近の統計では、力士の平均寿命はなんと56.7歳で、男子の平均寿命81.4歳とかけ離れています。各スポ-ツ競技の選手も、例外なく平均寿命より短いのですが、力士の平均寿命はダントツのワ-ストワンです。
ではなぜこんなに短命なのでしょうか?よく言われるのは、過酷な鍛錬、過酷な体重増加、過酷なストレスです。実際過酷な鍛錬は活性酸素の増加、過酷な体重増加は糖尿病などの疾病発症、そしてストレスは免疫力低下を初めとして、様々な不調を体に引き起こすことはよく知られています。ストレスは脳神経が過剰に活動している状態でもあります。
最近、ハーバード大学医科大学院の研究者達は、脳の過剰な活動は寿命を縮め、反対に過剰な脳神経活動を抑えれば、老化を遅らせることができ、寿命が伸びるとNature誌に発表しています。脳神経活動の抑制に大きな役割を担っているのは、脳内の「REST(お休み)」と呼ばれるタンパク質の働きのようです。
研究者達は、60~100歳で亡くなった、認知症ではない数百人の健康な脳組織における遺伝子発現パターンを調べました。明らかになったのは、85~100歳の脳では、それより若い年齢で死んでしまった人の脳に比べて、神経の過活動(神経興奮や過剰なシナプス機能)に関連する遺伝子の発現が少なかったことです。長生きした脳には、「REST(お休み)」と呼ばれるタンパク質が共通して見られました。このタンパク質はイオンチャネル、神経伝達物質受容体、シナプスの構造成分など、神経の興奮に関連する遺伝子を抑え、ストレスや認知症による老化から脳を守っていることが判明しました。
モデル生物(線虫やマウス)を使った研究では、薬物や遺伝子操作によって脳内の神経興奮やシナプス活動のレベルを低下させることで、寿命を延ばせることも分かりました。また反対に、神経活動レベルを高めた実験では短命となりました。中枢神経系には数多くの興奮性ニューロンと抑制性ニューロンが存在し、それぞれシナプス活動を増加させたり減少させたりしています。論文で明らかになった神経活動を弱めるREST(お休み)タンパク質が、神経活動に大きな調整役を果たしているようです。このように、寿命と神経活動パターンには因果関係があることが想定されます。将来的には、REST(お休み)タンパク質の発現レベルを高め、興奮性ニューロンの活動を減少させることにより老化を送らせ、寿命をのばすことが可能かも知れません。
全国の100歳を超える長寿者を対象に行った調査や長寿医学分野の研究によると、長寿者には共通する習慣があるそうです。それは「栄養バランスのとれた食事を腹八分目」、「適度な有酸素運動」そして「くよくよせず前向きでストレスの少ない生活」だそうです。NHKの人気番組では、5歳のチコちゃんが「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と決め台詞を発していますが、「ボーっと生きている」方が長生きなのかも知れません。 (by Mashi)
・生き残り生き残りたる寒さかな (当時としては長寿だった小林一茶(享年64歳)の句。江戸時代の平均寿命は32~44歳とされますが、乳幼児の死亡率が高く、成人すればかなり生きていられたと思われます。それでも手厚く育てられていた将軍の平均寿命は51歳でした。)
参考文献:Joseph M. Zullo et al., Regulation of lifespan by neural excitation and REST. Nature 574, 359–364(2019) doi: 10.1038/s41586-019-1647-8
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