天然ウナギは陸のミミズで育つ!

  もう数十年前の話です。海洋生物の研究もしていたM君は、春先に静岡県の浜名湖に採集に行き、ついでに鰻を食べ、お土産にうなぎパイを買うのが恒例でした(当時は浜松市が日本一の鰻養殖場)。今でも鰻は大好物ですが、知らぬ間にニホンウナギは、国際自然保護連合から絶滅危惧種の指定を受けてしまった。地球の生物史では、種の絶滅、新種の出現がくり返されてきましたが、近代の動物種の滅亡は、人間の活動、欲望によるところが大きいそうです。鰻好きのM君にも責任がある!?

  ウナギは、えらの他に皮膚でも呼吸ができるため、体と周囲が濡れてさえいれば陸上でも活動できます。濡れていれば切り立った絶壁でも這い登るため、「うなぎのぼり」という比喩の語源にもなっているくらいです。河川や湖沼などの自然界に生息するウナギ(ニホンウナギ)は、夜になると餌を求めて活発に動き回り、水生昆虫や甲殻類、カエル、小魚などいろいろな小動物を捕食するとされてきました。ところが最近、降雨に伴って川に流入するミミズが、実はウナギの主な餌資源になっていることが新たに判明しました。

  この研究をしたのは、東京大学大気海洋研究所、神戸大学大学院理学研究科、水産・研究教育機構などの研究グループです。研究者達は、胃内容物の分析と炭素・窒素安定同位体分析により、雨の日やその後に土壌中から地表へ這い出て川へ流入するミミズが、河川の下流域に生息するニホンウナギの重要な餌資源になっていることを初めて明らかにしました。従って、川岸がコンクリート護岸になると、河川へのミミズの供給が阻まれ、陸域–河川生態系の重要な繋がりが断ち切られてしまう可能性も示されました。

  ミミズは、通常河川流域の土壌中に高密度で生息していますが、雨の日やその後に地表に這い出て、時に川の中で大量に見られることもあるそうです。この降雨と強く関連したミミズの河川への大移動は、パルス的資源流入として河川の捕食者へ大きな餌資源をもたらす可能性があると研究者達は考えました。そこで、利根川下流域の汽水〜淡水域における4水域の計15カ所に調査定点を設定し、3年間毎月、竹筒漁によりニホンウナギを採集し、ウナギがミミズを食べている割合を調べました。

  ウナギの胃内容物を調べたところ、驚くべきことにミミズは全長40cm以下のウナギ(蒲焼きに適している大きさ)の餌の68~93%を占めていました。一方、コンクリ-ト護岸近辺のウナギからは、ミミズは検出されませんでした。また蒲焼きには適さない60cmの大きなウナギでは、ミミズではなく甲殻類(モクズガニ、アメリカザリガニ、テナガエビ)が主食のようです。

  炭素・窒素安定同位体分析からは、ウナギの食性に対する陸域資源の寄与率は調査した餌の中で最も高く、おおよそ50%と推定されました。このことからも、ミミズはウナギにとって極めて重要な餌資源であり、成長に欠かせないことが分かります。さらに、ウナギによるミミズの捕食は、春、夏、秋の各シーズンを通して見られ、降雨後2日間以内に集中していることも分かりました。

  M君の大好物の鰻が、実はミミズが大好物で成長していると知り、ちょっと複雑な気持ちです。(by Mashi)

参考文献:Hikaru Itakura et al., Large contribution of pulsed subsidies to a predatory fish inhabiting large stream channels. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences (2020) DOI:https://doi.org/10.1139/cjfas-2020-0004

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