認知機能の低下をAIが顔写真から判断

  認知症は、近年患者数の増加がみられる疾患で、大きな社会問題となっているため、認知症を早期に発見することが必要とされています。認知症は脳細胞が減少・壊死することで起きますが、男性より女性が発症することが多く、一番患者数が多いアルツハイマー型認知症は、加齢により脳にアミロイドβというたんぱく質がたまることで起こります。レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれるたんぱく質が脳の大脳皮質や脳幹に蓄積することで起き、比較的高齢の男性が発症しやすい傾向にあります。脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などにより脳血管が損傷したことで発症します。

  認知症では、記憶障害、見当識障害、判断能力の低下などが起き、他者とのコミュニケ-ションが困難になり社会生活に支障をきたすようになります。診断では、症状の聞き取りに加え、言語的能力や図形的能力を検査する「MMSE検査(ミニメンタルスチール検査)」や認知能力を確認する「長谷川式簡易知能評価スケール」といった検査が行われています(最近、この検査方法を作った長谷川医師自体が認知症になり話題になっています)。頭部のMRIやCT、PET(脳の糖代謝を調べる検査)、SPECT(脳の血流を調べる検査)などが行われることもあります。

  最近、東京大学医学部附属病院と東京都健康長寿医療センターの研究グループは、従来の診断方法とは全く異なり、認知機能の低下したアルツハイマー型患者と健常者の顔写真を、人工知能(AI)が見分けることができることを世界で初めて示しました。もし顔により認知症の早期発見ができれば、非侵襲的、短時間かつ多人数を検査できる安価なスクリーニングとして大変有用だと考えられます。

  老化は全身的なプロセスのため、顔で判断する見た目の年齢は余命、動脈硬化症、骨粗鬆症の指標となることが想定されています。たとえば、「AIは顔をみて冠動脈疾患を検出できる」という研究を、以前のコラム(2020年10月26日)でもご紹介しました。また、東京大学医学部附属病院老年病科のグループも、見た目の年齢が実際の年齢よりも認知機能と強い相関を示すことを最近論文で発表しています。

  今回研究者達は、病院を受診して物忘れを訴える患者、および大規模高齢者コホート調査(柏スタディ)の参加者の中から同意を得た方の正面の表情のない顔写真を使い、認知機能低下を示す群(121 名)と正常群(117 名)の弁別ができるかどうか、人工知能(AI )で解析しました。

  その結果、正答率 92.56%と高い弁別能が示されました。AI モデルが算出するスコアは、実年齢よりも認知機能のスコアに有意に強い相関を示しました。図では、個々人のデ-タをまとめて模式的に丸の図形で示してあります。縦軸は数値が高いほど認知機能が良いことを示し、横軸は顔写真からAIが算出した認知症度で、数字が高いほど認知機能が低いことを表しています。AIが健常人と認知症群をほぼ明確に区別していることが分かります。

  また、AIによる判断は顔のどの部分で行われているのか知るために、顔を上下で分けて解析したところ、どちらもほぼ同様の成績でしたが、顔の下半分のほうが少し良い成績を示したそうです。やはり口元は大事なのでしょうか。健常人でAIが認知症と判定した方が数%いますが、寝起きの寝ぼけた顔や、疲労しやる気のない顔だと認知症と判定されてしまうのでしょうか。くわばらくわばら。(by Mashi)

・姥(うば)捨てた奴も一つの月夜哉(小林一茶)

捨てられた老婆にも、棄てた者にも同じ月が照り、両者共に哀しい思いで月を仰ぐ夜。寿命が短かった江戸時代でも、コミュニケ-ションがとれず、社会生活が難しい認知症の老人は一定数いたと思われます。

参考文献:Yumi Umeda-Kameyama et al., Screening of Alzheimer's Disease by Facial Complexion Using Artificial Intelligence. Aging (2021) doi: 10.18632/aging.202545.

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