喫煙と肥満、体により悪いのはどちら?

  健康に悪い危険因子は何でしょうか。厚労省の健康日本21に、「2007年の日本における危険因子に関連する非感染性疾患と外因による死亡数」という報告があります(Ikeda N, et al.: PLoS Med, 9: e1001160, 2012)。高血圧や高血糖などの疾病原因を除いて、健康に悪い(死亡数が多い)原因の順番は、「喫煙」「運動不足」「塩分の高摂取」「アルコール摂取」「過体重・肥満」となっています。 

  この結果から分かるように、喫煙は最大の危険因子であり、過体重・肥満より、死亡数が7倍近く多い状態です(2007年)。おそらく日本では、現在も喫煙が最大の危険因子、寿命を縮める生活習慣だと推定されますが、外国ではどうでしょうか? 実は最近、英国では喫煙と肥満が逆転し、肥満が最大の危険因子となりました。

  近年、世界保健機関(WHO)では、喫煙が肺がんや呼吸器疾患、心血管疾患を含むすべての死亡の約20%を占める最高ランクの危険因子であると認定し、公衆衛生介入の主要な標的としてきました。その結果もあり、先進国では喫煙率は減少しており、日本でも2005年の25%から2017年には18%に低下しています。英国では、2005年の24%から2017年には17%に低下しています。一方、同じ2005年から2017年の間に、日本では肥満(ボディマス指数BMI=体重kg ÷ 身長m ÷身長m の値が25以上)率は24%から26%に増加し、英国でも肥満(BMI 30以上:国際的な肥満の定義)率は23%から29%に増加しています。このように先進国では、近年喫煙率と肥満率は逆相関しています。

  最近、英国グラスゴ-大学の研究者達は、同国の2003-2017年の健康調査データに基づき、肥満と喫煙歴の年間報告数と全原因死亡数との関連を比較、検討する後向コホート研究を行ないました。調査対象者は、19万人で構成され、女性が56%、平均年齢は49.9歳でした。平均BMIは27.4であり、対象者の約半数は現在または元喫煙者でした。

  調査の結果、全死亡に対し、過去もしくは現喫煙が外的原因とされる割合は2003年の23.1%から2017年に17.9%に低下しました(5.2%の低下)。一方、肥満が原因とされる死亡原因の割合は17.9%から 23.1%に増加していました(5.2%の増加)。この最大危険因子の逆転は、男女平均で2013年(男性2011年、女性2014年)に起きていたことが分かりました。またこの最大危険因子の逆転は、65歳以上の高齢者では2006年に、45-64歳者では2012年に起きていましたが、45歳以下では逆転はしておらず、相変わらず喫煙が最大の危険因子でした。

  このように、過去15年間で英国(イングランドとスコットランド)の肥満に起因する死亡率の着実な増加と、同じ期間に喫煙に起因する死亡率の着実な減少が観察されました。最大危険因子逆転の2014年以降、肥満による死亡は喫煙を上回り、その差は拡大しているそうです。日本での現況は不明ですが、喫煙率が減少する一方、肥満率は年々増加し、脂肪摂取増加に起因するがん疾患も増加していることを考えると、近い将来英国のように、最大の危険因子は、喫煙から肥満へ転換していくことが予想されます。(by Mashi)

・たばこの火手に打ち抜いて夕涼み(小林一茶)

煙管(きせる)に詰めた刻みタバコの火を、掌でたたき落としながら夕涼みしている。当時は、タバコが健康の大きな危険因子だとは誰も思っていなかったでしょう。

参考文献:Frederick K. Ho, et al., Changes over 15 years in the contribution of adiposity and smoking to deaths in England and Scotland. BMC Public Health volume 21, Article number: 169 (2021)

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