運動は様々な生活習慣病に有効とされ、安静が必要とされていた腎臓病でも、最近では運動が良いとされるようになってきました。しかし、マラソンなどの長時間の激しい運動後にランナーが風邪をひきやすくなるなど、激しい運動は抗ウイルス免疫を低下させる可能性も報告されてきました。一方で、激しい運動をしている人の方が逆に風邪をひきにくいというデータもあり、運動が抗ウイルス免疫に良い影響を及ぼすのか、悪い影響を及ぼすのか長年議論されてきたにもかかわらず、その真偽は不明でした。
最近、京都大学大学院医学研究科の研究グループは、マラソンなどの長時間の激しい運動が、血中の免疫細胞動態を変化させ、抗ウイルス免疫の増強にも減弱にも作用しうることを、動物モデルを使った実験で突き止めました。運動が抗ウイルス免疫に与える影響は、ウイルス曝露からのタイミングによって正にも負にも作用することから、運動により抗ウイルス免疫を効果的に増強させる治療や予防に応用できる可能性があります。
研究者達は、マウスにヘルペスウイルスを感染させ、その後激しい運動をさせ、ウイルス感染症状にどのように作用するか様々な条件で検討しました。運動による血液中の免疫細胞の変動を調べると、ウイルスへの攻撃の役割を果たすインターフェロンを多量に産生する細胞である形質細胞様樹状細胞が、血液中から骨髄へ移動し、血液中の形質細胞様樹状細胞数が一過性に減少しました。その結果、感染局所に浸潤する形質細胞様樹状細胞数が低下し、十分なウイルス防御能が発揮できず、感染症が悪化することが分かりました。
一方、運動が終わってから 6~12 時間後には血液中の形質細胞様樹状細胞数数は一過性に上昇し、感染局所への浸潤数も増加し、ウイルス防御能が増強されて、感染症が改善することが分かりました。
さらに運動後の形質細胞様樹状細胞数の増減は、運動中に産生されるグルココルチコイドが原因であることを突き止められました。グルココルチコイドは、副腎皮質から産生されるホルモンで、抗炎症作用や免疫抑制作用、抗アレルギー作用などを示すことが知られています。
このように運動が抗ウイルス免疫に与える影響は、ウイルス曝露からのタイミングによって正にも負にも作用しうることが解明されました。今後は、ヘルペスウイルス以外のウイルス感染症での検討や、ヒトでも同様の現象が実際起きるのか実証する必要があると思われます。(by Mashi)
・五十里の江戸を出代る子ども哉 (小林一茶)
出代わり(奉公人が雇用期限を終了して交替すること)で、江戸から50里も離れた故郷信濃と往き来する子どもがいる。1日1万歩どころの運動量ではないですね!!
参考文献:Akimasa Adachi et al., Prolonged high-intensity exercise induces fluctuating immune responses to herpes simplex virus infection via glucocorticoids. The Journal of Allergy and Clinical Immunology (2021) DOI:https://doi.org/10.1016/j.jaci.2021.04.028
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