下水から新型コロナの流行を早期検知できる!!

  毎日の生活の中から生じる下水には、様々なものが含まれています。たとえば、生活上排出される様々な化学物質や重金属、放射性同位元素など多種類の物が含まれています。私達が使用している抗生物質、解熱鎮痛剤などの医薬品も、約100種類が下水から検出されています。さらに、下水には生物由来の物として、ウイルスや細菌、真菌などの微生物、さらには細胞由来の核酸(DNAやRNA)なども含まれています。従って、下水は「宝の山」ならぬ「宝の水?」とも呼べる多くの情報が隠されていることになります。

  下水には様々な核酸(DNAやRNA)が含まれていることから、下水中の新型コロナウイルスの遺伝子(RNA )を検出することで、感染流行を早期に検知する下水疫学に期待が寄せられています。新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るう中、東北大学大学院工学研究科、環境科学研究科、医学系研究科及び北海道大学の共同研究者達は、下水中の新型コロナウイルス濃度から、下水集水域の感染者数を推定するための数理モデルを構築しました。

  研究では、新型コロナウイルス感染者が糞便中に排出するウイルス量のデータを用いることで、陽性診断者数から下水中の新型コロナウイルス排出量、及び排出者数(症状が出ていない不顕性感染者を含む)を推定する数理モデルを作成しました。実際に、東京都(23区、八王子市及び町田市)での新型コロナ患者数データを、本モデルに適用して得られた下水中の新型コロナウイルス濃度の推定値と、世界中の多くの地域で採用されている従来型の下水中の新型コロナウイルス検出手法による検出感度を比較したところ、従来型では検出感度が悪いために、残念ながら感染流行を早期に検知することができませんでした。

  一方、最近になって北海道大学と塩野義製薬が開発した検出感度が従来法と比べて100倍高い方法が発表されました。それは、下水中の固形物から効率良くウイルス RNA を抽出し、2段階の核酸増幅工程からなる定量 PCR 法により新型コロナウイルス RNA を高感度に定量検出するものです。従来法と比べて検出感度が100倍高いこの方法を2020年の流行に適用すると、第1波は 4 月 11 日、第2波は 7 月 11 日に感染の拡大を検知可能であったことが分かりました。

  このように、この数理モデルを用いると、新型コロナ流行の第1波と第2波を、比較的初期に下水中のウイルス量から推定することができました。さらに有用な点は、臨床的な症状が出ていない不顕性感染者を含む総数(全ての新型コロナウイルス排出者)を推定することが可能なことです。変異株を含む新型コロナウイルスの流行の把握、患者数の推定など、今後このウイルス検出法を用いた下水疫学に期待したいものです。(by Mashi)

参考文献:Yifan Zhu et al., Early warning of COVID-19 in Tokyo via wastewater-based epidemiology: How feasible it really is? Journal of Water and Environment Technology 19, 170-183, (2021) DOI: 10.1016/j.scitotenv.2021.145124

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