女性はかゆみに敏感!?

  男性と女性の間では、様々な疾患に対する罹患率や治療経過が異なることが知られています。例えば、男性では女性よりがんや通風の罹患率が高く、女性では骨粗鬆症、自己免疫疾患(甲状腺疾患や関節リウマチなど)、アルツハイマー型認知症などへの罹患率が男性より高いことが報告されています。性ホルモンの影響が考えられる女性特有または男性特有の病気もあり、また男女で薬の効果も違うこともあります。このように男女の様々な差異により発生する疾患や病態の差異を念頭において行う医療を「性差医療」といい、「性差医療」の理解と研究は、今後さらに重要になってくると思われます。

  さて、かゆみや痛みなどは、生存していくために必須な知覚情報です。これらの知覚は、環境や心理的要因など、様々な状況で変化することも知られています。たとえば女性では、女性ホルモンの変動する妊娠中や更年期に、かゆみの感じ方が変わったり、不快なかゆみを経験したりすることが知られています。しかしながら、かゆみの感じ方が変わる原因はよく分かっていませんでした。

  最近、国立遺伝学研究所、岡山大学、京都府立医科大学、富山大学、佛教大学、カリフォルニア大学の国際研究チームは、女性ホルモンが変動する時期にかゆみが生じることに着目し、女性ホルモンがかゆみの感受性を変化させるのではないかと考え研究を行いました。研究では、実験動物のラットを用いて、主要な女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンのかゆみに対する影響を調べました。

  エストロゲンとプロゲステロンは卵巣で産生されるため、雌ラットの卵巣を摘出し、エストロゲンとプロゲステロンの濃度を低下させた対照群①、卵巣摘出後にエストロゲンを補充したエストロゲン群②、プロゲステロンを補充したプロゲステロン群③、両ホルモンを補充したエストロゲン・プロゲステロン群④の4群に分けました。これらの雌ラットの皮膚にかゆみを引き起こすヒスタミンを投与した後、かゆみの指標となる後ろ足による引っ掻き行動を調べました。その結果、エストロゲン群②では引っ掻き行動が増加し、継続したのに対し、プロゲステロン群を含む他の群①、③、④では引っ掻き行動は増えませんでした。

  かゆみの情報は、皮膚から脳に伝わる時に脊髄を通ります。最近、脊髄に発現する「ガストリン放出ペプチド受容体」が、かゆみを独自に脳に伝えることが分かってきました。研究者達が調べたところ、かゆみ刺激を与えると、エストロゲン群②では対照群①に比べ、「ガストリン放出ペプチド受容体」神経の活動が上昇することが分かりました。またこの受容体の働きを抑えると、エストロゲンにより上昇した引っ掻き行動が抑えられ、エストロゲンにより増したかゆみは脊髄の「ガストリン放出ペプチド受容体」を介して伝達されていることが判明しました。

  この研究は、女性ホルモンのエストロゲンが脊髄の受容体を介して、かゆみの感じ方を変えていることを世界で初めて明らかにしたものです。今後、かゆみ疾患の原因解明と治療法の開発に寄与することが期待されます。(by Mashi)

参考文献:K. Takanami et al., Estrogens influence female itch sensitivity via the spinal gastrin-releasing peptide receptor neurons. PNAS (2021) 118, e2103536118 DOI:10.1073/pnas.2103536118

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