澄んだひとみはなぜできる?

  幼児や子どものひとみは、澄んで透明感がありますが、年齢を重ねるに従い目の水晶体は、だんだん変化して濁度が強くなり、透明感が低下、光の透過量も低下します。白内障は、目の中のレンズの役目を果たす水晶体が白く濁り、視力の低下を招く病気です。白内障はさまざまな原因で起こりますが、最も多いのは加齢によるものであり、誰でも年をとるにつれ、水晶体中のタンパク質が変性し、水晶体は濁ってきます。加齢性白内障は一種の老化現象ですから、高年齢の人ほど多く発症します。

  では子ども達に見られるように、水晶体はもともとなぜ透明なのでしょうか?体のパ-ツ中でこんなに透明な部分は他にありません。この謎に挑戦したのは、東京大学大学院医学系研究科の研究グループです。研究者達は、眼の水晶体を透明にする仕組みとして、新たな細胞内分解システムを最近発見しました。

  体を構成している細胞には、細胞の中に核やミトコンドリア、小胞体などの細胞小器官が通常存在していますが、眼の水晶体では、その成熟過程で細胞内のすべての細胞小器官が消失してしまうことが100年以上も前から知られていました。水晶体は光を網膜に集める機能を担う透明な組織です。水晶体で起こる大規模な細胞小器官の分解は、水晶体の機能獲得に重要な役割を果たしていると考えられますが、その分解の仕組みや意義はほとんど明らかにされていませんでした。

  水晶体は上皮細胞とそれから分化した線維細胞によって構成されています。細胞小器官の分解は、線維細胞への分化の最終段階で起こります。研究グループは、通常の細胞で細胞小器官の分解を担うオートファジー(代表的な細胞内分解システムで、2016年のノーベル医学生理学賞(大隅良典博士))は、水晶体細胞の細胞小器官の分解には関与しないことを、これまでに見いだしていました。すなわち、水晶体にはオートファジーとは異なる新しい細胞小器官分解システムが存在することを予想しました。

  水晶体の細胞小器官の分解の仕組みを解析するため、研究者達は遺伝子が改変しやすく、生きた状態で細胞や組織を観察しやすいゼブラフィッシュ(シマウマのように体表に紺色の縞模様がある)をモデルとして用いました。蛍光たんぱく質で標識、可視化した各細胞小器官を観察したところ、水晶体細胞の細胞小器官が分解されていることが分かりました。

  次に、水晶体で高発現している遺伝子を調べたところ、細胞小器官の分解には脂質分解酵素に属する特定の酵素が必要であることがわかりました。さらにこの脂質分解酵素を欠損したゼブラフィッシュおよび 欠損マウスの水晶体では、白内障(水晶体の混濁)や光の屈折異常が見られたことから、この酵素による大規模な細胞小器官分解が、水晶体の透明化に必須であると考えられました(図参照、図は眼科先進医療研究会HPより)。

  100 年以上前から不明であった水晶体における細胞小器官分解の仕組みが、世界で初めて解明されるとともに、従来のオートファジーだけでなく、生物には脂質分解酵素を用いた細胞小器官分解システムも存在するという新しい概念が提出されたことになります。(by Mashi)

参考文献:Hideaki Morishita et al., Organelle degradation in the lens by PLAAT phospholipases. Nature (2021) DOI:10.1038/s41586-021-03439-w

0コメント

  • 1000 / 1000