虫歯菌、歯周病菌は脳卒中の新たなリスク因子

  歯や口腔衛生の重要性について、過去にも度々ご紹介してきましたが、中高年の健康に関する後悔で最も多いのは、「若い頃から歯や口腔衛生をきちんとケアすべきだった」、という嘆きだそうです。

  歯周組織は、上皮が脆弱であり常在菌が侵入しやすい環境のため、歯周組織の悪化、抜歯などの処理、さらには歯磨きでさえ容易に菌血症(血液中に細菌が認められる状態)を起こしうることが知られています。従って、口腔内の細菌は血管の中に進入し、脳や心臓など全身の血管の病気を引き起こすのではないかと言われてきました。

  実際、頸動脈プラ-ク(頸動脈に発生した動脈硬化)中に全例から虫歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans))が検出されたり、虫歯菌は感染性心内膜炎の起因菌にもなっています。また、歯周病菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)など)の感染はアテローム動脈硬化に関与したり、脳梗塞の発症にも関わることが報告されています。さらに歯周病菌は、脳梗塞の重大リスクである心房細動を引き起こしたり、最近ではアルツハイマー病との関連も指摘されています。

  近年虫歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)の分子遺伝学的解析が進んだ結果、細胞外基質と接着するコラ-ゲン結合たんぱく質を持つ虫歯菌を、健常人の10~15%が保有していることが明らかになっています。そして、このコラ-ゲン結合たんぱく質を持つ虫歯菌を口腔内に持つ人(保菌者)は、通常の虫歯菌を持つ人と比較して、脳微小出血や脳出血の発症頻度が高いことが知られるようになってきました。たとえば、このコラ-ゲン結合たんぱく質を持つ虫歯菌の保有者は、脳微小出血の検出が14倍高く、認知機能の低下が認められることも多いそうです。またこの特定の虫歯菌を持つヒトは、他の脳卒中型と比較して高血圧性の脳出血リスクが7倍上昇しているそうです。

  では、なぜこのコラ-ゲン結合たんぱく質を持つ虫歯菌保有者が脳出血を引き起こし易いのでしょうか?常在虫歯菌は、通常の歯磨きでも少量、歯周病だと大量に血中に侵入し、菌血症状態になります。この血液中のコラ-ゲン結合たんぱく質を持つ虫歯菌は、加齢や生活習慣病のために壁が脆くなった脳の血管壁のコラーゲン線維に結合し易い性質があります。菌が血管壁へ結合すると、血管壁が炎症をおこし、出血しやすくなると思われます。高血圧が原因と考えられた脳出血の26%の患者さんに、この菌の感染がみられたという報告もあるそうです。コラ-ゲン結合たんぱく質を持つ虫歯菌は、今後脳卒中の重要な危険因子として確立される可能性があると考えられます。

  脳血管障害の予防には、高血圧、高脂血症、糖尿病、不整脈、喫煙などの従来から知られている危険因子に対策を立てつつ、口腔ケアも重要だと思われます。帝京大学医真菌研究センタ-でも、口腔ケア向上を目指したアロマキャンデ-やタブレット、ジェルなどを開発してきました。歯科医を受診し虫歯や歯周病を早めに治すことや、歯磨きでも軽度ながら菌血症が生じることから、歯肉を傷めないように正しいブラッシングを行うことも大切のようです。(by Mashi)

参考文献:1) 猪原匡史:特定の虫歯菌を保有する人は脳出血リスクが上昇する、医学のあゆみ、vol 271, 202-203 (2019)  2) 第44回日本脳卒中学会学術集会シンポジウム(脳血管障害) 2019年

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