ネアンデルタール人から受け継いだ新型コロナ感受性

  新型コロナ感染症(COVID-19)では、重症の人から無症状の人までいます。高齢者や基礎疾患のある人が重症化しやすいことは知られていますが、今回新たに遺伝的要因も影響していることが明らかになりました。

  ドイツのマックス・プランク人類学研究所とスウェーデンのカロリンスカ研究所の研究者達が国際学術誌Natureに発表した論文によると、人間の遺伝子のうち3番目の染色体から新型コロナウイルスの病状を悪化させる遺伝子6個が見つかったというものです。重症化した人としなかった人の3000人以上の遺伝子解析から分かりました。そして驚くべきことに、新型コロナの悪化に関係するこれらの遺伝子は、絶滅したネアンデルタール人から現生人類が約6万年前に受け継いだ可能性も分かりました。

  ネアンデルタ-ル人は、30~40万年前にアフリカを出て、中東を経てヨ-ロッパに拡がりましたが、2万~4万前に絶滅しました。一方、私達現生人類の先祖は、5~6万年前にアフリカを出て、中東を経て拡がっていきました。従って数万年の間は、アフリカを除くユ-ラシア大陸で両者は共存していたことになります。

  近年(2010年以降)の詳細な遺伝子研究などから、驚くべき研究結果がNature誌やScience誌に相次いで発表されました。それは、日本人を含む「非アフリカ人」は、ネアンデルタ-ル人のDNAを数%(1~4%)持っていることが明らかになったことです。これは約5万年前にアフリカを出た現生人類が、ヨ-ロッパやアジアに当時住んでいたネアンデルタール人と出会い交雑しましたが、アフリカにずっといた人達は、ネアンデルタール人と出会う機会が無く、ネアンデルタ-ル人のDNAを現在に至るまで持っていないと考えられます。日本人を含む現在の非アフリカ人は、ネアンデルタ-ル人などの旧人類との国際児(混血児)ということになります。

  この数%残存しているネアンデルタール人由来の遺伝子は、現生人類に重大な影響力を与えていると考えられ、たとえば厚みのある皮膚を獲得し、寒冷な気候への適応に役立てることができた可能性が高いと思われています。

  そして今回の研究から、新型コロナ感染症で人工呼吸器が必要になるような重症化する人達に見つかった、3番染色体の特定領域にある遺伝子変異は、ネアンデルタール人を起源とすることが分かりました。ネアンデルタール人由来の重症化に関与するこの遺伝子断片を保有する人の割合は、欧州では約16%、南アジアでは約50%ですが、アフリカ(交雑していないので当然ですが)と東アジアでは、保有者がほとんどいないそうです。実際アフリカや日本などの東アジアでCOVID-19の重傷者、死亡者が少ないことと相関しています。研究者は、「ネアンデルタール人の遺伝的遺産が、現在のパンデミックという悲劇的な結果をもたらしているのは衝撃的だ」と述べています。(by Mashi)

参考文献:Hugo Zeberg et al., The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2818-3

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