今さらきけないフレイル、ロコモ、サルコペニア

  わが国の高齢化率は、2020年末には過去最高の28.7%になり、今後も上昇していきます。現在、600万人を超える高齢者が要介護の認定を受けていますが、介護が必要になった主な原因としては、厚労省の国民生活基礎調査によると、認知症、高齢による衰弱、骨折・転倒、脳血管疾患などです。また高齢者、特に75歳以上の後期高齢者では、メタボ体質より、栄養欠乏による低栄養状態が問題となっています。低栄養状態は、日常生活の活動度や生活の質(QOL)の低下につながり、要介護状態に至る前段階のフレイルという状態を引き起こします。高齢者はメタボより痩せが大きなリスクとなります。

  フレイルは、日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。すなわち「加齢により心身が老い衰えた状態」のことであり、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。フレイルは、早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があります。フレイルの基準は、1.体重減少、2.疲れ易さ、3.歩行速度低下、4.握力低下、5.身体活動量低下 の5項目です(図参照)。

  ロコモとは、ロコモティブシンドロームの略称であり、英語の移動ロコモーションと移動能力を表すロコモティブから作られた言葉で、「移動するための能力が不足したり、衰えたりした状態」を指します。運動器は骨・関節・筋肉・神経などで成り立っていますが、これらの組織の障害(例えば骨粗鬆症や加齢による筋力低下)によって、立ったり歩いたりするための身体能力(移動機能)が低下した状態であり、「運動器症候群」とも言われています。

  サルコペニアとは、ギリシャ語の筋肉サルコと喪失ぺニアを合わせた言葉であり、「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」を指します。筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の筋力低下が起き、歩くスピードが遅くなったり、杖や手すりが必要になったり、転倒のリスクも高くなります。

  このように、フレイルとは低栄養と共にロコモ、サルコペニアをきたしている状態です。訪問介護などを受けている高齢者では、77.5%が低栄養やそのおそれがあり、さらに嚥下機能が低下するほど低栄養者が増えるという調査結果もあります。筋力や筋肉量が減少すると活動量が減り、エネルギー消費量も低下し、その結果食欲低下、食事量の減少をきたし低栄養の状態になります。低栄養の状態が続くと体重が減少し、筋力や筋肉量がさらに減少していきます。こうした悪循環を「フレイルサイクル」と呼び、転倒や骨折あるいは慢性疾患の悪化をきっかけとして、要介護状態になる可能性が高くなります。

  また、栄養状態と口腔機能には密接な関わり合いがあり、口腔機能の軽度低下(滑舌低下、食べこぼしや噛めない食品の増加など)に伴う食習慣悪化の徴候が現れる段階として「オーラルフレイル期」があります。実際、噛む力(咬合力)は、高齢者は若年者に比べ1/2~1/4にまで低下しています。オーラルフレイルは、早期の重要な老化のサインとされ、噛む力や舌の動きの悪化が食生活に支障を及ぼしたり、滑舌が悪くなることで人や社会との関わりの減少を招くことから、身体全体のフレイルと深い関係があります。

  BMI(ボデイマス指数)が18以下だと死亡率が高くなることはよく知られていますが、高齢者はメタボより低栄養による痩せに気をつけた方がよいようです。(by Mashi)

・散る花やすでにおのれも下り坂(小林一茶)

フレイルという概念のなかった江戸時代ですが、自らの衰えを自覚していたのでしょう。

参考文献:前田佳予子、高齢者の低栄養リスク:在宅高齢者の栄養管理、キュ-ピ-ニュ-ス (2020), 558, 1-10

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