手帳とスマホ、脳の活性化はどちら?

  あなたが予定を記入するのは、手帳ですかそれともスマホなどの電子機器ですか?個人の好みですのでどちらでも良いと思いますが、ちょっと気になる報告があります。スケジュールなどを書き留める際に、スマートフォンなどの電子機器と比較して、紙の手帳を使った方が、記憶の想起に対する脳活動が高くなるようなのです。

  この結果は、東京大学大学院総合文化研究科およびNTTデータ経営研究所などとの共同研究で明らかにされました。研究グループは、参加者に具体的な予定を紙の手帳か電子機器にメモしてもらい、MRI(磁気共鳴画像)装置と想起課題を用いて予定の想起のプロセスを調べました。その結果、記憶処理および言語処理に関係する脳領野の活動が、紙の手帳を用いた群で定量的に高くなりました。この結果は、電子機器にはない紙の特性が、五感を通して空間的な手がかりを与えることで、より深い記銘を可能にしていると思われます。電子機器が広く使われている現在、記憶力や創造性につながる紙媒体の重要性の再認識が必要かもしれません。

  私達は、日常紙の本や雑誌に加え、スマートフォン・タブレット・パソコンといった電子機器を用いていますが、それが日々の学習などに及ぼす影響については、これまで十分な検証がなされてきませんでした。異なるメディア使用によりなされた記銘が、どのように記憶の想起に差を生じさせるか、またその時、脳はどのような状態にあるのかも不明でした。

  実験では、18~29 歳の参加者 48 名(学生および一般公募者)を手帳群・タブレット群・スマホ群という 3 群(各 16 名)に分け、具体的なスケジュールを書き留める課題を行いました。手帳とタブレットでは見開きの大きさを等しくしています。書き留めた後に、スケジュールの内容を思い出して解答する課題を MRI 装置内で実施しました。なお参加者には、内容を覚えるようにとの指示はせず、日常的なスケジュール管理における自然な状況で行いました。

  その結果、手帳群では他の群よりも短時間で記銘を終えており、要領よく記銘できていたことが分かりました。また、一定の直接的な設問についての成績では、手帳群の方がタブレット群よりも高いという結果も示されました。この想起課題を行っているときの脳活動を fMRI(機能的磁気共鳴画像法)で測定したところ、言語処理に関連した部位や、記憶処理に関係する海馬に加えて、視覚を司る領域でも活動上昇がすべての群で観察されました。そして、これらの領域の脳活動は、手帳群が他の群よりも高いことが確かめられました。

  紙の教科書やノートを使って学習する際には、そこに書かれた言葉の情報だけでなく、紙上の場所や書き込みとの位置関係といった視覚情報などを、同時に関連付けて記憶する連合学習が生じていると考えられます。一方電子機器では、画面と文字情報の位置関係が一定ではなく、各ページの手掛かりが乏しいために、空間的な情報を関連付けて記憶することが難しいと思われます。このように紙媒体は、想起の際の手掛かりが豊富であるため、記憶の定着に有利であることに加え、その高い記憶力を元にした新しい思考や創造的な発想に対しても、役立つと言えます。

  私達が経験的に行ってきた、漢字や英単語を書きながら覚えると良いのも、脳が活性化され記憶ができやすい状態を作っているためと想像されます。かつて大学生に授業アンケ-トを実施した時、一番評価が低かったのは、パワ-ポイントなどの電子機器で進める授業、次にプリントを配布する授業、一番評価が高かったのは、昔ながらの黒板に板書する授業、という意外(?)な結果でした。学生さんも、手を使いノ-トに書き写し、時間をかけて理解し、記銘するのが一番良いのでしょう。(By Mashi)

・正月の待遠しさも昔哉(小林一茶)

スマホもタブレットも無い時代、一茶は正月の予定をどこかに手書きしていたのでしょうか。

参考文献:Keita Umejima et al., Paper notebooks vs. mobile devices: Brain activation differences during memory retrieval. Front. Behav. Neurosci. 15, 634158, 1-11 (2021). DOI: 10.3389/fnbeh.2021.634158.

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