赤ちゃんも上に立っている人が優位と判断する

    目上の人という表現や、競技大会などで表彰台の高いところには勝者が立つというように、私たちはしばしば社会的な優位性や地位を空間位置で表現します。しかし、このような優位性関係と空間的位置の結びつきはいつ、どのように獲得されるのでしょうか? 最近、京都大学大学院教育学研究科と九州大学大学院人間環境学研究院のグループは、まだ言葉の話せない乳児が、空間的に上にいる者が社会的に優位であることを判断している可能性を報告しています。すなわち、優位性関係と空間的位置の結びつきが、発達の初期に既に見られること、また特定の語彙や社会的経験に依存していない可能性を示唆していると思われます。

    優位性関係と空間的位置の結びつきが獲得されることに対する仮説のひとつは、その結びつきが言語学習の過程で獲得されているというものです。たとえば「上下関係」という言葉があるように、私達は優位性関係と空間的位置の結びついた表現を使用しています。一方、優位性関係を評価する能力が、言葉をしゃべらない生後一年目にすでに見られるという報告もあります。研究チームは、このような知見を考慮して、言語を獲得する以前の赤ちゃんでも、優位性関係と空間的位置を結びつけている可能性を検討しました。

    研究では、生後12-16ヶ月児を対象として、優位性関係と空間的位置の結びつきが見られるかどうかについて調べました。具体的には、赤ちゃんが、空間的に上にいる個体(動画キャラクタ-)が下にいる個体より優位であることを期待 (予測)しているか調べます。赤ちゃんが実験動画をどのくらい見たか、視線計測装置やビデオカメラで計測し、赤ちゃんを対象とした研究では広く使われている「期待違反法」という手法で評価しました。

その結果、赤ちゃんは「空間的に上にいる個体が優位であり勝負に勝つ」という期待をしていることが分かりました。すなわち、空間的に上にいる個体が、下にいる個体より優位であると判断していることが明らかになりました。赤ちゃんの月齢や、性別、個人差といった参加者の属性や、使用した個体キャラクターの色、勝ち負けの順番などといった属性は、結果に関係しなかったそうです。

このように、社会的経験も言語的経験も少ない1歳の赤ちゃんが空間的位置関係に基づいて優位性関係を判断することから、優位性関係と空間的位置の結びつきが、言語を介して獲得されるものだという従来の仮説に疑問を投げかけることになります。

    この結果を生物学的に考えるとおもしろいと思います。弱肉強食の生物の世界では、基本的に大きな個体が小さな個体を捕食します。従って自分より大きな個体は、強者だと本能的に感じるのだと思います。つまり空間的に上にいる個体は大きく感じ、強者だと判断するのは生得的なものかもしれません。赤ちゃんおそるべしです。(by Mashi)

・這へ笑へ二つになるぞけさからは(小林一茶)

(当時は生まれた時に一歳と数え、正月が来れば二歳になった。一茶の娘は、不幸なことにその年の6月、満1歳と2ヶ月で亡くなってしまった。)

参考文献:Xianwei Meng et al., Space and rank: Infants expect agents in higher position to be socially dominant. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences (2019) DOI:10.1098/rspb.2019.1674

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