新型コロナウイルスによる嗅覚障害

  新型コロナウイルス感染症(疾患名COVID-19、ウイルス名SARS-CoV-2)は、今後どう展開するのか予断を許さない状況です。COVID-19感染症では、発熱や咳が出ていなくても約半数のヒト(30~80%)が味覚や嗅覚の異常を訴えることから、感染初期の診断を補足するのに役立つと考えられています。嗅覚障害はアデノウイルスなど200種類以上のウイルスが原因で引き起こされ、新型コロナウイルスに特徴的ではありませんが、流行時における一つの大きな指標といえます。

  ではどのようにして新型コロナウイルスは感染を起こし、嗅覚障害が起こるのでしょうか。SARS-CoV-2がヒトに感染するには、感染を起こす細胞の表面に存在する受容体タンパク質(アンジオテンシン変換酵素II(ACE2))に結合することが初発反応です。ウイルスは細胞膜のこの受容体(ACE2)に結合したあと、ウイルス外側(コロナ(王冠)の名称の由来になっている)の蛋白質が蛋白質分解酵素(TMPRSS2)で切断、活性化され、ウイルスと細胞膜が融合し感染が成立します(図参照)。

  鼻腔の鼻粘膜上皮表層には、匂いを感じる嗅細胞を支える支持細胞として、粘液を出す杯細胞と線毛を有する線毛(繊毛)細胞が存在しています。そして最近の研究から、この二つの細胞に、感染の鍵物質となる受容体(ACE2)と蛋白質分解酵素(TMPRSS2)の二つが豊富に発現していることが分かったのです(図参照)。すなわち鼻腔は、新型コロナウイルス感染の主要な入り口になっていることが理解できます。新型コロナウイルスSARS-CoV-2は眼から感染したり、下痢を起こすことも知られていますが、実際感染の入り口となる二つの鍵物質(受容体(ACE2)と蛋白質分解酵素(TMPRSS2))は、眼や消化管にも豊富に存在することから納得できます。

  嗅覚障害は、このように嗅細胞を支えている支持細胞の死、脱落、さらにそれにより引き起こされる炎症状態により引き起こされていると考えられます。嗅細胞(嗅神経)自身が感染し機能不全に陥るわけではないようです。病状の回復と共にこの嗅覚異常は回復していくようです。(by Mashi)

参考文献:1) Paolo Boscolo-Rizzo, et al., Evolution of altered sense of smell or taste in patients with mildly symptomatic COVID-19. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. July 2, 2020. doi:10.1001/jamaoto.2020.1379 2) Waradon Sungnak, et al., SARS-CoV-2 entry factors are highly expressed in nasal epithelial cells together with innate immune genes. Nature Medicine volume 26, pages681–687(2020) 3) 井上純一郎 他、新型コロナウイルスの感染阻止が期待される国内既存薬剤の同定、東京大学医科学研究所 2020年3月18日発表 (図は文献 2),3)より改変)

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