新型コロナウイルスは鼻上皮細胞で自然免疫を活性化

    前回のコラムで、新型コロナウイルス感染症(疾患名COVID-19、ウイルス名SARS-CoV-2)による嗅覚障害の原因は、嗅細胞を支えている支持細胞(粘液を出す杯細胞と線毛を有する線毛(繊毛)細胞)の障害によることをご紹介致しました。今回は、新型コロナウイルスの感染により、鼻上皮細胞で自然免疫の遺伝子が高度に発現していることをご紹介致します。

    免疫系は自然免疫系(食細胞系が中心)と獲得免疫系(リンパ球系が中心)の2つに大きく分けることができます。自然免疫は全ての動物種が例外なく持っていますが、獲得免疫は進化した脊椎動物だけが持つ記憶と特異性にすぐれた防御システムです。自然免疫は、病原体などに共通する分子や構造を認識して素早く反応(分単位、時単位)するシステムですが、獲得免疫では病原体に特異的な抗原に反応し、時間をかけて(日単位、週単位)対応していきます。両者は完全に独立したシステムではなく、反応時間の流れの中で、共存、協調、調節を行っています。たとえば、自然免疫系ではマクロファ-ジ(食細胞)がサイトカインを産生してリンパ球を刺激するし、逆にリンパ球の産生したサイトカインは、マクロファージを活性化したり抑制したりします。

    さて、新型コロナウイルスの感染場所となっている鼻上皮細胞で、自然免疫系の遺伝子の活性化が起きているか調べたところ、支持細胞の杯細胞で自然免疫および抗ウイルス免疫機能に関連する多くの遺伝子(IDO1、IRAK3、NOS2、TNFSF10、OAS1およびMX1)が過剰に発現されていることが分かりました。杯細胞は新型コロナウイルスの受容体を豊富に持っており、鼻腔で感染・侵入の初発反応が起きる責任細胞ですが、同時にウイルス排除の自然免疫系の遺伝子も活性化され、ウイルスに抵抗を示していることになります。

    細胞内に存在するミトコンドリアは、細胞の呼吸やエネルギー産生に関わっている大切な細胞小器官ですが、細菌やウイルスに対する自然免疫応答でも非常に重要な役割を担っていることが近年明らかになっています。RNAウイルス(新型コロナウイルスなど)が細胞に感染、侵入すると、細胞内のRNAセンサーがウイルスRNAを認識し、その情報をミトコンドリア外膜上に局在する受容体に伝達すると、最終的に短時間で自然免疫系が始動します。このように細胞内におけるウイルス応答、自然免疫系活性化では、ミトコンドリアが重要な位置を占めています(図参照)。(by Mashi)

参考文献:Waradon Sungnak, et al., SARS-CoV-2 entry factors are highly expressed in nasal epithelial cells together with innate immune genes. Nature Medicine volume 26, pages681–687(2020)

0コメント

  • 1000 / 1000