新型コロナウイルス感染症とパルスオキシメ-タの父

  新型コロナウイルス感染症(疾患名COVID-19、ウイルス名SARS-CoV-2)が最初の猛威をふるっていた2020年4月、パルスオキシメ-タの父ともいわれていた青柳卓雄氏が老衰のため84歳で亡くなりました。新型コロナウイルス感染症の拡大で、パルスオキシメータの重要性が再認識されている最中のことでした。彼がこのパルスオキシメータの原理を発明したのは、今から50年近く前のことでした。

  新型コロナウイルス感染で、軽症として経過観察していた方が突如重症化することも報道されています。低酸素状態になっていても自覚症状がなく、気づいた時には重症化していることがあります。低酸素症になると、動脈血の酸素の量が少なくなるため、身体の隅々に酸素を送ることができなくなり、例えば脳細胞が死滅するなどして最終的に命にかかわることが起きます。この病状を的確に把握するために、世界中でパルスオキシメータの価値が再認識されています。本邦でも2020年4月に、厚生労働省から医療機関に向けて、新型コロナウイルス感染症の軽症者を対象に「体温計」に加えて「パルスオキシメータ」を使うための指針が示されました。

  パルスオキシメータ(pulse oximeter)は、動脈⾎酸素飽和度(SpO2)を採⾎することなく、指先などに光をあてることによって測定する装置で、通常ヘモグロビンの示す酸素飽和度は約96から99%の値です。低酸素血症を起こしていると、酸素飽和度は90%を下回り、人工呼吸器などによる酸素療法が必要となります。胸痛やせきなどは自覚できますが、低酸素症状はしばしば自覚できないため、パルスオキシメータによる動脈⾎酸素飽和度の測定が大変重要です。パルスオキシメータは、病院の⼿術室や集中治療室、各診療科などで幅広く使⽤されていますが、近年では医療機関内だけでなく、往診や訪問看護、老人施設、さらには慢性呼吸器疾患患者の⾃⼰管理、⾼齢者の体調管理など、家庭でも幅広く使われています(図参照)。

  青柳氏がパルスオキシメータの原理を発明してから半世紀、今やその技術は世界中の医療現場に普及し、全身麻酔手術の安全性を飛躍的に高め、世界中の患者さんの命を救っています。まさに、パルスオキシメータの発明は、世界の医学史に残る偉業といえます。ノ-ベル賞候補にもなっていた青柳氏の死は、ニュ-ヨ-クタイムズなど海外のメデイアでも取り上げられました。多くの日本人が知らない、日本人の偉大な業績です。 (by Mashi)

参考文献:大石理江子、小原伸樹;パルスオキシメ-タ-の現代医学における功績、医学のあゆみ、274, 599-600 (2020)

0コメント

  • 1000 / 1000